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COLUMNコラム

2026.09.16

中高年の半月板損傷は手術すべき? MRIで「半月板損傷」と言われても、すぐに手術が必要とは限りません

「MRIで半月板が切れていると言われた」「手術を勧められたが本当に必要なのか」――中高年の患者さんから最も多くいただくご相談のひとつです。 結論から申し上げますと、中高年の半月板損傷に対する手術療法は、慎重に適応を判断すべきというのが現在の整形外科診療の潮流です。 本コラムでは、その理由と、例外的に早期の手術が推奨される「内側半月板後根断裂(MMPRT)」への対応まで、わかりやすく解説します。

中高年の半月板損傷は「若い人のケガ」とは別物です

半月板は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の間に挟まれた三日月形の線維軟骨で、内側と外側に1枚ずつ存在します。 膝にかかる荷重を分散し、関節軟骨を守るクッションであると同時に、膝の安定性にも寄与しています。

一方で、「半月板損傷」と一言で言っても、その中身は年代によって大きく異なります。 若年者では、スポーツ中のひねり動作で健康な半月板が急に切れる「外傷性断裂」が中心です。 これに対して、中高年に起こる半月板損傷の多くは、加齢によって半月板の組織が脆くなり、日常動作のなかで少しずつ亀裂が生じてくる「変性断裂」です。

年代多い損傷パターン典型的なきっかけ
若年層縦断裂、バケツ柄状断裂(外傷性)スポーツ中のひねり・ジャンプ着地
中高年水平断裂・複合断裂・弁状断裂(変性断裂)しゃがみ込み、立ち上がり、階段昇降など日常動作
中高年後根断裂(MMPRT)軽い踏み込み時に「ブチッ」と感じることが多い

つまり、中高年の膝MRIで「半月板断裂」の所見が見つかることは、ごくありふれた加齢変化でもあります。 実際、症状のない中高年でも、MRIを撮れば一定の割合で半月板変性・断裂像が見つかることが知られており、 「MRIで断裂している=手術が必要」という単純な図式は成り立ちません。

変形性膝関節症に伴う「変性断裂」と「半月板の逸脱」

中高年の膝痛を診るうえで欠かせない視点が、「その半月板損傷は、単独の病態か、変形性膝関節症の一部か」という判断です。

変性断裂は、多くの場合「変形性膝関節症の初期像」

中高年の半月板変性断裂は、独立した外傷というよりも、変形性膝関節症の進行過程で起こる関節構造の変化のひとつとして現れることがしばしばです。 関節軟骨がすでに摩耗しはじめており、その荷重ストレスに耐えきれなくなった半月板が、内部で少しずつ裂けていく――というイメージです。変性断裂はMRIで確認できます。

半月板の「逸脱(extrusion)」という現象

もうひとつ重要な所見が半月板の逸脱です。半月板が本来あるべき大腿骨と脛骨の間から、関節の外側へはみ出してしまう状態を指し、MRIで容易に確認できます。 半月板が逸脱すると、クッション機能そのものが失われ、荷重が直接軟骨にかかるため、変形性膝関節症の進行が加速することが知られています。

ここが重要

中高年の半月板損傷を評価する際には、「切れているかどうか」だけでなく、 ①関節軟骨の状態②アライメント(O脚の程度)③半月板の逸脱の有無を合わせて判断する必要があります。 これらを無視して断裂部だけを切除しても、根本的な荷重環境は改善しないからです。

なぜ、中高年の半月板損傷は安易に手術をすべきでないのか

① 大規模研究で「関節鏡手術の優位性」が示されなかった

中高年の変性型半月板損傷に対する関節鏡下部分切除術(APM)については、これまでに海外を中心に複数の質の高いランダム化比較試験が行われてきました。 その多くで、保存療法(運動療法中心)と比較して、関節鏡手術に明らかな優位性は認められないと報告されています。

「症状のある変性断裂であっても、まず運動療法をきちんと行った患者さんと、手術を行った患者さんで、1〜2年後の痛みや機能に大差はなかった」という結果です。

② 半月板を切除すると、将来の変形性膝関節症リスクが上がる

半月板は一度切除すると再生しません。切除した半月板の量に比例して、その部位にかかる荷重は増加し、関節軟骨への負担が増します。 若い方でも将来の変形リスクが問題になりますが、すでに軟骨変性が始まっている中高年ではなおさらです。

「痛みを取るために手術したが、数年後にかえって変形性膝関節症が進行してしまった」というのは、中高年の方の半月板損傷に対する半月板切除術を施行した後、十分起こりうる長期的な合併症であり、最も避けたい経過です。

③ 痛みの原因が本当に半月板とは限らない

中高年の膝痛には、関節軟骨の変性、滑膜炎、タナ障害、骨内病変(骨髄浮腫や軟骨下骨の微小骨折)、大腿骨内顆骨壊死、鵞足炎、腰椎由来の関連痛など、複数の要因が重なっていることが多くあります。

MRIで半月板断裂が「見えている」からといって、それが今の痛みの主犯とは限りません。 半月板だけを処理しても症状が改善しないケースは珍しくないのです。

当院の基本スタンス

中高年の変性型半月板損傷に対する関節鏡下手術は、原則として「保存療法を十分に行っても改善しない場合の選択肢」と位置づけ、 安易には行わない方針です。手術の適応は、症状・画像・アライメント・活動レベルを総合的にみて、患者さんごとに慎重に判断します。

まず行うべき保存療法の考え方

中高年の半月板損傷に対して、当院がまず提案する保存療法の柱は次のとおりです。

運動療法(リハビリ)

ある程度痛みが軽快すれば、大腿四頭筋・ハムストリングス・股関節周囲筋を中心とした筋力訓練。膝への荷重を分散し、関節の安定性を高めます。

可動域訓練とストレッチ

膝の伸展制限を残さないことが、変形性膝関節症の進行予防にもつながります。ある程度痛みが軽快すれば筋力トレーニングを指導します。

体重・生活指導

体重1kgの減量で膝への荷重は歩行時で数kg分軽くなります。正座・深いしゃがみ込みは半月板・軟骨への負担が大きいため見直しを。

薬物療法

NSAIDs(消炎鎮痛薬)の内服・外用、必要に応じてアセトアミノフェン、トラマドールなど。

関節内注射

ヒアルロン酸注射は関節内環境の改善と摩擦軽減に、ステロイド注射は炎症の強い時期の疼痛コントロールに使い分けます。半月板の逸脱症例に対しては、半月板付着部の関節包への注射が痛みに効果がある可能性があり、試してみるべき治療法です。

装具療法

内側型変形性膝関節症では、外側楔状足底板やサポーターで内側コンパートメントの負荷を軽減します。

保存療法のポイント

中高年の変性断裂では、3か月程度は運動療法を中心とした保存療法をしっかり継続することが原則です。 「注射だけ」「湿布だけ」では効果を判定できません。運動療法を継続して評価することが、手術の要否を正しく判断する土台になります。

それでも手術を検討すべきケース

一方で、中高年でも手術療法が積極的に検討される状況は存在します。以下は代表的なものです。

  1. ロッキング(膝が急に動かなくなる/伸ばしきれない)
    断裂した半月板の一部が関節に挟まっている状態で、機械的な障害があるため保存療法では改善しません。
  2. 大きな弁状断裂で「引っかかり感」や膝崩れが繰り返す
    日常生活に支障が出ている場合。
  3. 十分な保存療法(3〜6か月)を行っても、疼痛と機能障害が改善しない
  4. 半月板の逸脱が高度で、明らかに荷重支持機能が破綻している
    この場合は骨切り術など合わせた再建的手術が候補。
  5. MMPRT(内側半月板後根断裂)
    次項で詳述しますが、これは中高年の半月板損傷の中でも例外的に早期治療が推奨される病態です。

なお、関節軟骨の変性がすでに進行し、いわゆる「進行期〜末期」の変形性膝関節症となっている場合には、 関節鏡での半月板処理よりも、高位脛骨骨切り術(HTO)や、人工膝関節単顆置換術(UKA)、 人工膝関節全置換術(TKA)のほうが、痛みと機能の改善が期待できます。 「関節鏡か、骨切りか、人工関節か」を、年齢・活動性・変形の程度に応じて選択することが重要です。

例外:内側半月板後根断裂(MMPRT)への治療

ここまで「中高年の半月板損傷には慎重な手術適応を」とお伝えしてきましたが、 そのなかで唯一、早期の外科的介入がしばしば推奨される特殊な病が、 内側半月板後根断裂(Medial Meniscus Posterior Root Tear:MMPRT)です。

MMPRTとはどんな病態か

内側半月板は、その前後の付着部(root)で脛骨にしっかり固定されており、これによって荷重時に外側へ逃げないようになっています。 このうち後方の付着部が断裂した状態がMMPRTです。50歳以降の中高年に多く、 階段を下りるときや軽くしゃがんだ・立ち上がった瞬間などに、 膝の裏側で「ブチッ」「ゴリッ」という感覚とともに強い痛みが出るのが特徴的です。

放置するとどうなるか

後根が切れると、内側半月板は「タガの外れた樽」のように関節の外へ大きく逸脱し、 半月板本来の荷重分散機能を果たせなくなります。その結果、

という経過をたどることが知られています。単純X線で異常が軽微なわりに痛みが強いのがこの疾患の特徴で、 「レントゲンでは大したことない」と言われて放置されてしまうケースが少なくありません。MRIによる早期診断が非常に重要です。

MMPRTに対する治療方針

MMPRTは他の中高年の半月板変性断裂とは異なり、「診断された時点で手術療法を積極的に検討すべき」病態と考えられています。 とくに関節軟骨の変性がまだ進んでいない段階では、後根の修復(pullout修復術)が第一選択となります。一方で変関節軟骨の変性が進行しており、変形性関節症が進行した例ではpull outに加えて方位脛骨骨切り術を併用したり、さらに進行した症例や半月板の修復が困難な症例では人工関節置換術を考慮すべきと考えます。

MMPRTの診療で最も重要なこと

「急に強い膝痛が出た中高年の方で、レントゲン所見が軽微な場合こそMMPRTを疑う」――これに尽きます。 診断が遅れれば遅れるほど、半月板の逸脱と軟骨変性が進み、修復術の適応から外れていきます。 当院では、疑わしい症例には積極的にMRI検査を行い、修復術の適応となる時期を逃さないよう努めています。

大切なのは「切るか/切らないか」ではなく「膝を長く使う」視点

本コラムの要点を整理します。

「痛みを取る」ことと「膝を10年後・20年後も使い続けられるようにする」ことは、必ずしも同じ方向を向いていません。 特に中高年の膝では、目の前の断裂像だけを追いかけずに、関節全体の将来像を見据えた治療戦略が求められます。

膝の痛みや半月板損傷でお悩みの方、他院で手術を勧められて迷っている方は、ぜひ一度ご相談ください。 画像所見・診察所見・生活背景を踏まえて、あなたの膝にとって最も納得できる選択肢を一緒に考えます。

※本コラムは一般的な医療情報の提供を目的としたものであり、個々の患者さんの診断・治療方針を決定するものではありません。 症状のある方は、必ず診察を受けてください。

この記事を書いた人

中谷 宏幸
整形外科医、リウマチ医

整形外科専門医、日本リウマチ学会専門医・指導医。大阪大学医学部整形外科教室に入局リウマチグループに所属して、リウマチ医、下肢人工関節、足の外科医として基幹病院での勤務医を経て2022年なごみ整形外科リウマチクリニックを開業

専門分野

リウマチ性疾患の薬物治療、関節疾患(特に下肢関節)ペインクリニック(エコーガイド下ブロック・ハイドロリリース)、骨粗しょう症治療、足・膝・股関節、小児整形、リハビリテーション

受賞歴

日本リウマチ学会奨励賞
ISTU(国際超音波治療学会)Young investigator`s awardなど

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