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COLUMNコラム

2026.01.18

四十肩・五十肩(凍結肩)って放っておいても勝手に良くなる?~専門医が教える凍結肩の予後と対策

1. はじめに:臨床現場における「自然治癒」神話の真実

「放っておけば治る」は本当か?

日本において「五十肩」「四十肩」という名称は、年齢による一過性の不調として軽く捉えられがちです。しかし、医学的に「癒着性関節包炎、凍結肩」と呼ばれ、肩関節を包む組織(関節包)が炎症を起こし、分厚く硬化して骨に癒着する深刻な病態です。

一部の患者さんは「痛くても放っておけばそのうち治る(自然治癒)」と信じています。確かに痛みはいずれ引くことが多いですが、最新の長期追跡研究では、「痛みは消えても、可動域(動く範囲)は元に戻らない」ケースが非常に多いことが明らかになっています。

私自身も10年ほど前、右のちに左凍結肩になりました。ちょうど子育て中なのに子供とのキャッチボールが本気でできず、困った覚えがあります。なんとか自分でリハビリをしていましたが、左肩は右肩に比べると肩が挙がりにくいため、高いつり革を持つときに窮屈感があり、時に痛みがあります。幸い左なのであまり日常説活には影響ないですが、患者さんにストレッチの見本をするときにばれないようにするのが大変です。本稿では、未治療で放置した場合の真のリスクと、現代医学が推奨する解決策を解説します。

2. 病気の正体と「3つのステージ」

この病気の本質は、筋肉の凝りではなく、関節の奥にある袋(関節包)の「線維化(組織が硬くなる変化)」です。症状は通常、以下の3段階で推移します。

① 第1期:凍結進行期(炎症期)

② 第2期:凍結期(拘縮期)

③ 第3期:解凍期(回復期)

3. 未治療リスク:データが示す「約半数に残る後遺症」

「自然経過で治る」という言葉の裏には、残酷な現実があります。海外の著名な研究データは、未治療のリスクについて以下のように警告しています。

50%に症状が残存

Shafferらの長期追跡研究(1992年)によると、未治療のまま約7年経過した患者さんの50%に、何らかの痛みや可動域制限が残っていました。

40%が不満

Handらの研究(2008年)でも、発症から4年以上経過しても41%の患者さんが症状を訴えており、そのうち6%は重度な機能障害を抱えていました。

放置が引き起こす「負の連鎖」

肩が動かない状態を長期間放置すると、身体は代償動作(トリックモーション)を覚えることがあります。

慢性的な肩こり・頭痛

肩甲骨を無理に引き上げて腕を使おうとするため、首や背中の筋肉が過緊張状態になります。そのため、肩こり、頭痛、上肢痛、しびれ感などの症状が出現することがあります。

姿勢の悪化

長引くと肩が内側に入り込む「巻き肩」や猫背が定着し、呼吸が浅くなるなどの全身的な影響が出る可能性があります。

腱板機能不全と廃用性萎縮

長期間の不動は、回旋筋腱板(Rotator Cuff)の筋力低下を招きます。さらに、関節が固まったまま無理に動かすことで、腱板が骨(肩峰)と衝突する「インピンジメント症候群」を誘発し、将来的な腱板変性断裂のリスクファクターになり得ます 。

4. 予後を悪化させる二大要因:糖尿病と甲状腺疾患

特に注意が必要なのが、糖尿病甲状腺疾患をお持ちの方です。

糖尿病

患者の10〜30%が凍結肩を発症し、一般の人より約5倍リスクが高いとされています。高血糖により組織が糖化(コラーゲンが硬くなる)するため、非常に治りにくく、手術が必要になる確率が高いのが特徴です。

甲状腺疾患

甲状腺機能低下症の方も発症リスクが高く、特に両肩ともに発症するケースが多く見られます。

これらの疾患をお持ちの方が「肩が痛い」と感じたら、自然治癒を待たず、直ちに専門的な治療を開始する必要があります。

また、肩関節の拘縮が強い人は一般的に予後が悪いです。可動域が特に悪い(挙上90度以下、外転90度以下、1st外旋30度以下など)の方は早期から積極的に治療介入したほうがいいと考えます。

5. 世界標準の治療戦略と日本の最新技術

世界のガイドライン(AAOS・NICE)

海外のガイドラインでは日本同様痛みを取ったうえで治療することが必要とされています。

痛い時期(第1期)は動かさない

かつては「痛くても動かせ」と言われましたが、これは間違いです。炎症期に無理に動かすと炎症が悪化し、かえって治りが遅くなります。この時期は十分痛みを抑えるためにハイドロリリース、時にはステロイドの関節内注射などで炎症を鎮火させながら動かすことが最優先です。

固まった時期(第2期以降)は積極的に動かす

痛みが落ち着いたら、固まった関節包を伸ばすリハビリが必要です。「Supervised Neglect(監視下での放置=痛みのない範囲での運動)」という概念が推奨されています。

日本独自の進化した治療オプション:日本の「湿布」文化と整骨院

日本では、湿布薬や接骨院治療の一部が保険診療で適応となっているため、肩が痛むとまず「湿布」を貼る、あるいは「整骨院(接骨院)」に行くという行動パターンが定着しています 。   

湿布の限界

湿布に含まれる消炎鎮痛成分は、皮膚から浸透して表面的な炎症を抑える効果はありますが、関節の深部にある関節包の癒着を物理的に剥がすことはできません。あくまで一時的な対症療法です。

整骨院の役割

マッサージや電気治療は筋肉の緊張緩和には有効ですが、凍結肩の本質である「関節包の拘縮」に対する医学的介入(画像診断に基づく診断・治療、注射や薬物療法など)は行えません。重要なのは、まず整形外科で鑑別診断を受けることです。問診聴取、身体所見の精査を行ない、レントゲン、MRIや超音波検査、場合によっては血液検査など精査を受け、「腱板断裂」や「石灰沈着性腱板炎」などの他の疾患を除外診断することが大事です 。   

保存療法(リハビリ)で改善しない場合、日本の専門病院、クリニックでは以下の低侵襲治療が行われています。

ハイドロリリース(筋膜リリース注射)、関節内注射

サイレントマニピュレーションと比較すると比較的簡便に行なえるので、単独あるいはリハビリとの併用で行なうのに適しています。可動域制限の原因となっている動きやターゲットにする腱・筋肉に応じて様々な注射を行なってゆきます。

エコーを見ながら癒着した組織(筋膜や神経周囲)に麻酔薬やヒアルロン酸、生理食塩水などを注入し、水圧で癒着を剥がす治療です。即効性があり、頻回に施行でき、身体への負担が少ないのが特徴です。

メカニズム

超音波で癒着している筋膜(Fascia)や神経周囲、関節包を確認しながら、生理食塩水(または少量の麻酔薬を含む液)を注入します。液体の圧力(水圧)で癒着した組織間を剥がし、滑走性(滑り)を良くします。

特徴

ステロイドを使わないため副作用が少なく、繰り返し行える点がメリットです。特に、凍結肩に伴う筋肉の張りや、ハイドロリリースは神経絞扼による痛みに即効性があります 。 

サイレント・マニピュレーション(非観血的関節受動術)

頸椎神経根に麻酔(エコーガイド下神経ブロック)を行い、痛みを感じない状態で医師が徒手的に関節を動かし、癒着した関節包を剥がす治療です。日帰りで数分で終了し、長期間のリハビリで治らなかった拘縮を一気に改善させる画期的な方法です。

超音波ガイド下神経ブロック

エコー(超音波診断装置)を見ながら、首の付け根にある腕神経叢(C5/C6神経根)に麻酔薬を注入します。これにより、肩から腕にかけての感覚と運動を完全に遮断します。患者様は意識がありますが、痛みは全く感じません 。   

徒手授動

医師が特定の順序(挙上→外旋→内旋など)で患者様の腕を動かします。この際、癒着して硬くなった関節包が「ベリベリ」「プチッ」という音(聞こえないこともあります)と共に剥がれ、一気に可動域が改善します。

所要時間

処置自体は数分〜10分程度で終了し、日帰りで帰宅可能です。ただし、その後リハビリテーション及び関節内注射、リハビリの継続が必要です。

鏡視下関節包切開術(Arthroscopic Capsular Release: ACR)

リハビリ・注射・マニピュレーションでも改善しない、あるいは糖尿病があり再癒着しやすい「超難治性」の場合のゴールドスタンダードです。入院・全身麻酔の上、癒着している関節包を手術的に剥がします。

方法

全身麻酔下で関節鏡を入れ、肥厚したCHL(烏口上腕靭帯)や関節包全周を電気メスで切離します。

特に重要な点

90度以下の症例では、CHLの切離による外旋改善と、下方の関節包切離による挙上改善を「解剖学的に確実に」行えるため、最も予後が良いです。ただし手術を行なっても動かさなければ再発のリスクが高まりますのでリハビリテーションの継続が必要です。

6.当院での治療

長期間にわたって肩関節の痛みと可動域制限を認める患者さんに対しては問診、身体所見チェック、可動域チェックの上、レントゲン、時にはエコー、腱や靱帯断裂が疑われる場合にはMRI検査などを行ないます。そのうえ腱板損傷などの可能性が低く、凍結肩の診断が得られた患者さんには治療を開始します。

鎮痛剤の処方

痛みの強い方には鎮痛剤の処方を行ないます。特に夜間痛で眠れない方には、生活指導の上、非ステロイド性消炎鎮痛薬、トラムセットなど弱オピオイド系鎮痛剤が有効な場合があります。

注射(関節内注射、ハイドロリリース、筋膜リリース、神経ブロック)

痛みが強い方には注射が効果的な場合が多いです。特に痛みを軽減してからリハビリをするとリハビリ中の痛みが軽減され、より痛みが軽減された状態で快適にリハビリテーションを受けられる可能性があるので、希望される患者さんには積極的に勧めています。

リハビリテーション

痛みのため自分では十分な可動域訓練が困難な場合が多いので、可動域回復のためにリハビリをお勧めします。注射後に行なうと痛みが和らぐので、希望される患者さんにはリハビリ前の注射をお勧めしています。来院して行なうリハビリ以上に重要なのは自宅で行なう自主訓練です。リハビリでは自主訓練の指導も含まれます。痛みが強くなく、自分で十分自主訓練リハビリがてきている患者さんには高頻度でのリハビリは必ずしも必要でありません。

体外衝撃波・圧力波(拡散型ショックウェーブ)

癒着した腱や関節包の炎症を抑えて痛みを軽減したり、腱の動きをスムーズにしたり、あるいは腱に沈着した石灰を取り除くために体外衝撃波(拡散型)が有効なことがあります。当院での体外衝撃波はリハビリの一環として理学療法士・作業療法士が行ないます。

サイレントマニピュレーション(非観血的関節受動術)

上記治療でも改善されない場合は、サイレントマニプレーションを行ないます。当院でも必要な患者さんに施行したいと思っており、現在準備中です。準備が整い次第開始予定です。

7. まとめ:専門医からのメッセージ

凍結肩(五十肩)は、単なる老化現象ではなく、適切な治療が必要な「疾患」です。治療を受けなくても時間がたてば日常生活に影響がないくらいに回復が期待できますが、40-50%程度の患者さんに何らかの愁訴が残る可能性があります。「1〜2年間以上の不自由な生活」と「一生残るかもしれない可動域制限」を避けるためには、早期の治療介入が鍵となります。

現代の医療では、数年かかっていたはずの回復期間を数ヶ月に短縮することが可能です。リハビリテーションに加え、エコーガイド下注射、ハイドロリリース、サイレント・マニピュレーションといった、低侵襲で効果的な治療法が日本国内でも普及しており、これらを活用することで「数年間の我慢」を「数ヶ月の治療」に変えることが可能です。不自由な生活を当たり前と思わず、ぜひ早めに整形外科専門医にご相談ください。

この記事を書いた人

中谷 宏幸
整形外科医、リウマチ医

整形外科専門医、日本リウマチ学会専門医・指導医。大阪大学医学部整形外科教室に入局リウマチグループに所属して、リウマチ医、下肢人工関節、足の外科医として基幹病院での勤務医を経て2022年なごみ整形外科リウマチクリニックを開業

専門分野

リウマチ性疾患の薬物治療、関節疾患(特に下肢関節)ペインクリニック(エコーガイド下ブロック・ハイドロリリース)、骨粗しょう症治療、足・膝・股関節、小児整形、リハビリテーション

受賞歴

日本リウマチ学会奨励賞
ISTU(国際超音波治療学会)Young investigator`s awardなど

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