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COLUMNコラム

2026.01.12

ぶつけた覚えがないのに膝が腫れた時~原因と治療法を専門医が解説

「何もしていないのに、急に膝が腫れてきた…」

「朝起きたら、片方の膝がなんだか重い」 「転んだわけでもないのに、膝がパンパンに腫れて曲がりにくい」

このような症状に驚き、不安を感じてこのページにたどり着いた方も多いのではないでしょうか。 強い怪我(外傷)の記憶がないのに膝が腫れる現象は、実は整形外科の日常診療で非常によく遭遇するものです。

「放っておけば治るだろうか?」 「水を抜くとクセになるって本当?」

そんな疑問に対し、整形外科専門医・リウマチ専門医の立場から、医学的な根拠(エビデンス)に基づいてわかりやすく解説します。

1. なぜ膝に水がたまるのか?(病態の基本)

まず、「膝の水」の正体についてお話ししましょう。 医学的には「関節水腫(かんせつすいしゅ)」と呼びますが、この水は本来、悪いものではありません。

膝の中は「エンジンオイル」で守られている

健康な膝関節の中には、関節液(滑液)という液体が少量(1〜3cc程度)存在しています。これは車のエンジンオイルのような役割を果たし、軟骨の栄養補給や、膝の動きを滑らかにする働きをしています。

炎症=火事、水=消火活動

しかし、膝の中で何らかの「炎症(火事)」が起きると、体はそれを鎮めようとして、急激に大量の関節液(消火の水)を作り出します。これが「膝に水がたまった」状態です。

つまり、「水がたまること」自体は病気ではなく、膝の中で何かが起きているという「結果(サイン)」なのです。 このサインを無視して放置すると、疾患によっては炎症が続き、軟骨の損傷が進んだり、関節の袋(関節包)が伸びきって痛みが慢性化したりするリスクがあります。

2.外傷がない膝関節腫脹の主な原因

非外傷性膝関節水腫の原因として考えられる代表的な疾患と治療方法について解説します。

1️⃣ 変形性膝関節症

2️⃣ 炎症性関節炎(関節リウマチなど)

3️⃣ 結晶誘発性関節炎(痛風・偽痛風)

4️⃣ 感染性(化膿性)関節炎(緊急対応が必要)

5️⃣ 半月板損傷・滑膜炎

3.原因を突き止める鍵は「関節液の色と性状」

強い外傷がないのに膝が腫れた場合、最も確実な診断方法は、腫れている関節に針を刺し、溜まっている関節液を採取して調べること(関節穿刺)です。

「針を刺すのは怖い」と思われるかもしれませんが、これは「診断」と「治療(圧力を抜いて痛みを和らげる)」を同時に行える非常に重要な処置です。経験のある医師であれば関節液を見ただけである位程度の診断が可能です。

抜いた液体の色や性状によって、原因は大きく以下の4つに分類されます。また、関節液検査では細胞数うや多核球(マクロファージ)の比率によって分類することが出来ます。

① 淡黄色・透明でネバネバしている(粘稠度が高い)

② 黄色・白濁している(サラサラしている)

③ 赤い色(血液が混じっている)

④ クリーム色・不透明(膿に近い)

4.世界のガイドラインに基づく「治療の選択肢」

原因が特定できたら、それに応じた治療を行います。ここでは代表的な「変形性膝関節症」や「偽痛風」などによる炎症に対する治療戦略を整理します。

① 薬物療法・注射(炎症を抑える)

② リハビリテーション(機能を戻す)

腫れが引いた後の再発予防として最も重要です。

5.なぜ「水を抜くこと」や「運動」が推奨されるのか?

ここでは、患者さんが安心して治療を受けていただけるよう、海外の主要なガイドラインや論文に基づいた医学的根拠(エビデンス)をご紹介します。

「水を抜く」ことの安全性と意義

米国整形外科学会(AAOS)や欧州のリウマチ学会(EULAR)等のガイドラインにおいて、原因不明の関節腫脹に対する関節穿刺(水を抜いて調べること)は、診断のゴールドスタンダード(最も信頼できる検査)とされています。 また、緊満した(パンパンに腫れた)関節から液を抜くことは、一時的にせよ関節内圧を下げ、軟骨への血流を回復させ、痛みを軽減させる効果が認められています。

ステロイド注射の効果

変形性膝関節症の急性増悪や偽痛風に対し、関節内ステロイド注射は「短期間の疼痛緩和と機能改善」において推奨されています(OARSIガイドライン等)。ただし、頻回な投与(例えば3ヶ月に1回以上を長期間など)は軟骨に悪影響を与える可能性があるため、専門医の管理下で回数を制限して行うのが世界的な共通認識です。

「運動療法」こそが最強の治療

多くの患者さんが「膝が悪いなら安静にすべき」と考えがちですが、ある程度水腫が軽快したら、国際変形性関節症学会(OARSI)は、「すべての変形性膝関節症患者に対して、筋力強化と有酸素運動を推奨する」と明言しています。 適切な運動は、痛み止めと同等以上の鎮痛効果と機能改善効果があることが、数多くの研究で証明されています。

6.日本人の膝と臨床現場での実際

海外のエビデンスを踏まえつつ、私たち日本の医師は、日本人の生活様式に合わせた治療を提案しています。

7.よくある誤解・Q&A

診察室で患者さんから頻繁にいただく質問にお答えします。

Q1. 「水を抜くとクセになる」って本当ですか?

A. それは誤解です。 水を抜いたからまた溜まるのではなく、「炎症が治まっていないから」また溜まるのです。むしろ、古い炎症性の水を溜めたままにするほうが、軟骨を傷め、炎症を長引かせる原因になる可能性があります。適切な治療で炎症が治まれば、水は溜まらなくなります。ただし痛風・偽痛風以外の疾患の場合、水を抜くだけでは解決しません。水腫と痛みが続いてる場合は積極的・根本的な治療が必要です。

Q2. 腫れているときは温める?冷やす?

A. 急に腫れて熱を持っている時期(急性期)は「冷やす(アイシング)」が基本です。 お風呂などで温めすぎると、血流が良くなりすぎて炎症が悪化することがあります。腫れと熱が引いて慢性的な痛みになったら、温めて血流を良くします。

Q3. 市販のサプリメント(グルコサミンなど)で水は引きますか?

A. 残念ながら、医学的に水(炎症)を引かせる効果は証明されていません。 補助食品として利用されることは否定しませんが、すでに膝が腫れている場合は、サプリメントに頼らず、まずは医療機関で炎症を止める治療を行うことを強くお勧めします。

8.まとめ:まずは「液体の正体」を知ることから

  1. 膝の腫れ(水)は、膝の中のSOSサインです。
  2. 関節液の色と性状を調べることで、適切な治療法が見つかります。
  3. 「水を抜くとクセになる」は誤解です。早めの対処が早期回復につながります。
  4. 痛みが落ち着いたら、リハビリ(運動療法)を行うことが再発予防の鍵です。

ご自身の膝が今どういう状態なのか、まずは専門医による診断を受けることが、痛みのない生活に戻るための第一歩です。 「これくらいで病院に行ってもいいのかな?」と迷わず、お気軽にご相談ください。膝関節疾患の治療は整形外科医の得意とする分野であり、上記鑑別診断に挙げた疾患はリウマチ性疾患に含まれており、リウマチ専門医にとって原因不明の関節炎の精査は得意とするところです。外傷がないのに膝が急に腫れてきた場合は整形外科・リウマチ専門医のいる病院または診療所に行きましょう。

中谷 宏幸:整形外科医、リウマチ医

整形外科専門医、日本リウマチ学会専門医・指導医。大阪大学医学部整形外科教室に入局リウマチグループに所属して、リウマチ医、下肢人工関節、足の外科医として基幹病院での勤務医を経て2022年なごみ整形外科リウマチクリニックを開業

専門分野:リウマチ性疾患の薬物治療、関節疾患(特に下肢関節)ペインクリニック(エコーガイド下ブロック・ハイドロリリース)、骨粗しょう症治療、足・膝・股関節、小児整形、リハビリテーション

受賞歴:日本リウマチ学会奨励賞
ISTU(国際超音波治療学会)Young investigator`s awardなど

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